【解説】
「あれ、なんだっけ?」
幼くして母親を亡くした少年「道夫」の父親が死の直前に口にした言葉で始まる『独立少年合唱団』は、1970年代初頭の緑豊かな北の町にある全寮制中学を舞台に合唱に情熱を燃やす少年二人の友情を思春期独特のナイーブで情緒的な調べにのせて、心揺さぶる歌声とともに描いた美しい物語だ。
本作は、『眠る男』(1996・小栗康平監督)や『月とキャベツ』(1996年・篠原哲雄監督)の舞台にもなった群馬県中之条町の伊参スタジオを中心に合宿生活をしながら、1999年3月から11月まで四季を追い4期間に分けて撮影された。タイトルのとおり「合唱」が命とも言える映画であるが、『独立学院グリークラブ』は撮影期間の合間にも東京で訓練を重ね、同クラブの顧問教師で合唱指揮者役の香川照之も自宅で日夜ピアノの練習に励みリアリティを追求。そうした8ヶ月の間に少年たちは、物語同様、様々な人々との出会いや経験により成長し、それが『独立少年合唱団』の一番の魅力となった。
主演の少年二人を、かつて「とんねるずのみなさんのおかげです」(CX)の“チビノリダー”としてお茶の間の人気をさらった“野性派”伊藤淳史と、少女のような美貌と天使のような歌声の“繊細派”藤間宇宙(とうま そら)が、そして少年達に合唱の魅力を教える教師を、今年ベルリンだけでなくカンヌも沸かせた香川照之が静かに熱く演じている。脇を固める俳優陣も、体当たりで悲劇的な最後を遂げる全共闘の女闘士を熱演した滝沢涼子、香川同様ベルリン・カンヌの観客を唸らせた光石研、飄々とした魅力で国語教師を好演した泉谷しげる、老学院長に大御所岡本喜八と、実力派、異色派が顔をそろえ彩りを添えている。
監督は「40歳の新人監督」緒方明。1981年の「ぴあフィルムフェスティバル」で注目を集めた後、同じく本作で映画デビューを果たした脚本の青木研次とともに「驚きももの木20世紀」(ABC)を手掛けるなど、TVドキュメンタリーを主な活動の場としていた。監督、脚本の二人が劇場用長篇映画デビューとなる作品でのアルフレート・バウアー賞受賞は日本映画史上初。プロデューサーは仙頭武則。仙頭と彼が率いるサンセントシネマワークスにとって、2000年、本作のベルリン映画祭コンペティション部門招待・受賞は、5月のカンヌ映画祭にて、J-WORKS第1回作品『EUREKA(ユリイカ)』(青山真治監督・役所広司主演)がコンペティション部門に招待され「国際批評家連盟賞」「エキュメニック賞」を受賞したことで、残るヴェネチア映画祭へ向けて、「単年度世界3大映画祭コンペティション部門制覇」という世界初の快挙への重要なスタートとなった。撮影の猪本雅三は劇場デビュー作『M/OTHER』(1999年・諏訪敦彦監督)のカンヌ映画祭国際批評家連盟賞受賞に続く快挙。『M/OTHER』『独立少年合唱団』に続くJ-MOVIE-WORKS5『人間の屑』(中嶋竹彦監督)の撮影も担当しており、ヴェネチア映画祭への期待も高まる。
音楽は、、オペラ楽曲による国際エミー賞優秀賞や、ザルツブルグ・テレビ・オペラ祭優秀賞受賞などで国際的に知られる池辺晋一郎が担当。映画全篇を通して流れる弦楽合奏の切なく美しい調べも大きな魅力である。
また、本作は、映画祭期間中に行われたヨーロピアンフィルムマーケットでドイツのセールスエージェント会社メディア・ルナと契約を完了しており、EUをはじめとする世界各国での劇場公開の準備が既に整っている。
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