『NAGISA』
2000年/日本/カラー/ヴィスタサイズ/モノラル/SR/6巻/1時間29分 製作・配給:フィルム・シティ ◇宣伝・配給協力:アルゴ・ピクチャーズ

◇監督:小沼勝 ◇脚本:斎藤猛、村上修 ◇撮影:田口晴久 ◇照明:矢部一男 ◇録音:菊池進平 ◇美術:岩本一成 ◇編集:矢船陽介 ◇音楽:遠藤浩二(SOUND KID'S) ◇スクリプター:飯塚美穂 ◇助監督:杉山順 ◇製作担当:黛威久 ◇製作:半沢浩 ◇企画:植木実 ◇プロデューサー:横田修一 ◇キャスティング:窪田昭子 ◇コーディネイト:吉田格 ◇原作:村上もとか「NAGISA」中公文庫コミック版(中央公論出版社刊) ◇キャスト:松田まどか、稲坂亜里沙、吉木誉絵、佐々木和徳、片桐夕子、松本智代美、芦川よしみ、佳那晃子、根岸季衣、つまみ枝豆、島村勝、出光元、深水三章、石丸謙二郎、柄本明



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【解説】

◆ベテランスタッフとオーディションによって選ばれた少女が作り上げた
人生で最も熱く切ない「ひと夏」を描いた珠玉のエンターテインメント


『龍RON』や『六三四の剣』で知られる名匠・村上もとかの青春漫画「NAGISA/なぎさ」が待望の映画化!「小学館ヤングサンデー」誌に連載された原作は、西宮なぎさの小学6年から美大受験浪人までの成長を描いた青春ストーリーだが、映画では12才の“少女”の部分にスポットを当てている。 舞台は1960年代、江ノ島の夏。スクール水着が似合う元気印の少女・なぎさは、流行りのレコードプレーヤー欲しさに、せっせと海の家でのアルバイトに励む毎日。早く大人になりたいと願うなぎさの前に、東京から帰省したホテルの美少女、避暑に来ている鵠沼の少年、従姉の家出娘らが現れたことから、彼女の心は揺れ動き始める。今年の夏はきっと何かが起こりそう…!?だが運命は多感な少女に、全く予期せぬ出来事を用意していた―。

大人にもなれずに戸惑い揺れ動く、思春期の少女が経験する特別なひと夏の物語を演出するのは、日活出身の最後の異端監督・小沼勝。主演の松田まどかは、オーディションで500人の中から選ばれたミレニアム・シンデレラだ。少女から大人へ脱皮しようとする心のざわつきを体当たりで表現。<小沼ウィーブ>と評されるほど、女性を描かせては細やかに紡がれた演出をする監督の、ハードな要求に見事に応えてみせた。脚本は、OV作品でも小沼監督とのコンビが多い斎藤猛(『雀鬼』シリーズ)と村上修(『真夏の地球』)が共同で担当。撮影は田口晴久(『ちぎれた愛の殺人』)、照明は矢部一男(『渚のシンドバッド』)他ベテランスタッフが参集。音楽は遠藤浩二(『漂流街』)が手がけ、挿入歌にザ・ピーナッツの「恋のバカンス」等'60sポップス採用。清冽な感動を呼び起こす魅惑のサントラを堪能させてくれる。

歓びや苦しみと出会いながら、大人への道の第一歩を踏み出す少年少女たち。ファミコンもカラオケも携帯電話もまだない、昭和の十代の少女の最も多感な思春期。湘南の陽ざしと共に哀感を込めて、黄金の'60sミュージックをバックに、人生で最も熱くセツない特別な「ひと夏」を描いた、珠玉の“湘南少女ムービー”が誕生した!




 


【ストーリー】

◆今すぐ大人になりたい…
無傷ではいられない、12才の夏―



湘南・江ノ島、昭和の夏。片瀬海岸は海水浴客でごった返している。小学6年生の西宮なぎさ(松田まどか)は、4年前に漁師の父を台風で亡くし、居酒屋を営む母の正子(片桐夕子)との二人暮らしだ。夏休み前日、バカンスの始まりに胸を弾ませながら、下校するなり親友・典子(吉木誉絵)と約束していた岩場にまっしぐら。地元の者しか知らないとっておきの穴場は、水泳が得意な彼女のお気に入りの場所だった。だが、典子にすっぽかされ、代わりに見かけない色白の少年が…。ノゾキだ大変!となぎさが睨みつけると慌てて逃げ去った。それが竹脇洋(佐々木和徳)との初めての出会いだった。翌日も洋の姿は砂浜で見かけられた。東京から避暑に来ていた彼は、単に漂着物の収集をしていたのだ。

なぎさ達の幼なじみで東京の私学に通う桑島真美(稲坂亜里沙)も帰省していた。真美は桑島ホテルの一人娘。なぎさ達とは育ちも違う上流家庭の女の子だ。すっかり大人びてアカ抜けた真美に反発を覚えるなぎさ。羨ましさとは裏腹に、真美の前ではどうしても素直にふるまえない…。そんななぎさに、吉岡のおばちゃん(根岸季衣)から海の家のバイトの口がかかる。前々からレコードプレーヤーが欲しくてたまらない彼女には、願ってもない稼ぎ口だ。翌日から早速、配膳のバイトに精を出し始めた。 仕事の後も、岩場での大好きな泳ぎは欠かさなかった。なぎさは、やがてそこで、親しくなった洋に泳ぎをおしえてやるようになった。ひ弱な洋はまったく泳げなかったのだ。

ある日、吉岡のおばちゃんの家出娘・従姉の麗子ちゃん(松本智代美)が突然帰宅した。アメ車を乗り回す恋人のタツヤ(島村勝)と一緒だ。不良娘の麗子にはいつも驚かされることばかり。帰って来るといきなり海の家を手伝い始めた。そして、この世で一番肝心なものはときめくハートなんだと、なぎさにとっておきのアドバイスをするのだった。海の家でのバイトにも慣れた頃、真美と典子が冷やかし半分に訪れた。なぎさは逆に、麗子風の“不良ファッション”を見せびらかしたり、更に悪ノリして、麗子を迎えにきたタツヤの車にも同乗し、二人の意表を突いて見返してやった…。




そんな真美との関係にやがて変化が訪れた。きっかけは、電器屋でお目当てのプレーヤーを争った時、なぎさに優先権を譲ってくれたことだった。以来、真美とは打ち解けて、一緒に水族館に行ったり、桑島家の方にもしばしば遊びに行くようになった。なぎさは、母が昔ホテルで働いていた頃、真美の母・澄子(芦川よしみ)とライバル関係にあったことを知らされた。そして、娘の私たちが入れ替わったら…というゲームなどに付き合わされ、真美にまんまと一杯食わされる。気まぐれ娘の他愛ない悪戯だと解っていても、なぎさには面白くなかった。そんな時、麗子から不良仲間の浜辺のナイト・パーティに誘われた。憂さ晴らしに嬉々としてOKするなぎさ。ブルーな気持ちも吹っ飛んだ。

一方、洋は自主トレで少しだけ泳ぎが巧くなった。この分では向こう側に見える岩まであと一息だ。ご褒美にそっとキスをしてやるなぎさ。典子と見た洋画を真似たウソんこのキスだ。ぽかんとする洋への照れ隠しに海に飛び込んだ。 なぎさは意を決して美容院で不良っぽい髪型に変えてもらい、浜のパーティに出かけた。麗子はタツヤと喧嘩して現れなかった。が、実は遅れてやって来て、こっそり焚き火の方を窺っていたのだ。気まずそうな二人。だがそのうち、なぎさの髪型の話題が仲直りのきっかけを作った。パーティは酒も入って異常に盛り上がり、みんなで踊りまくった。

少し眠ってしまったなぎさが目を覚ますと、折しもチークタイムで、抱き合う麗子とタツヤが熱いキスの真っ最中―映画ではない本物のキスだ!タツヤにちょっぴり憧れていたなぎさは、気を利かせてそっとその場を離れた。とその時突然、天から流れ星が流れ落ちたような気がした。波打ち際で光る緑色の小石を拾い上げるなぎさ。何てことのないガラス片だけど、洋の漂着物のコレクションに加えてあげたくなった。なぎさは洋に会う前に、散髪屋で髪型を元通りに戻した。そして、緑のガラス片を手に、喜ぶ洋の顔を想像しながら、足取りも軽く岩場を目指した。どこかで救急車のサイレン音が聞こえていた。いつもはほとんど誰もいない岩場の方角の辺りだ。嫌な予感がして走り出した。「東京の男の子だ。どうもダメだな、ありゃ」駆けてきた神主(柄本明)がそう教えてくれた。洋が溺れたらしいと解った瞬間、なぎさの顔から血の気が引いて気を失った。


二週間後、なぎさは海の家の店仕舞いを手伝った。そこへ、一人の紳士がなぎさを訪ねて来た。――洋の父・竹脇宗徳(石丸謙二郎)だった。竹脇は持参した洋の漂流物の収集箱をなぎさに見せてくれた。格子に仕切られ、几帳面に日毎の一番気に入った物が入れられていた。一つだけ空白の枡があり、その日は本当に嬉しそうだったのに、と竹脇は不思議がる。なぎさは、あッ!と思い当たった。初めて岩場で洋にキスをしたあの日だ。その時の思い出を詰めたに違いない…なぎさは、ポケットから緑色のガラス片を取り出すと、空白の枡にそっと入れてやるのだった。 あてもなく波打ち際を歩くなぎさ…。ラウド・スピーカーからザ・ピーナッツの「恋のバカンス」が唐突に鳴り渡った。この夏、なぎさ達がよく歌った曲だった。明るい歌声なのになぜだか無性に涙がこぼれ落ちてくる。なぎさだけを置き去りにして、夏がもう終わろうとしていた。なぎさは念願のレコードプレーヤーを遂に獲得した。そして、岩場で晩夏の陽ざしを浴びながら、夏休み最後の泳ぎを典子と存分に楽しむのだった。



 


【キャスト&スタッフ】

■小沼勝(監督)

1937年北海道出身。1961年日大芸術学部卒業と同時に日活に助監督として入社。年間10本ペースで各監督につき、1971年『花芯の誘い』で監督デビュー。『軽井沢夫人』『ブルーレイン大阪』など17年間に47本もの日活映画を撮り続けた。耽美的でシュールな映像表現を得意とする一方で、メロドラマからナンセンスコメディまでジャンルを問わず卓抜した演出力を見せつけ、ヒット・シリーズ『雀鬼』や『蕾のルチア』(「THE NEW RELEASE」92年度BEST1)などオリジナル・ビデオで活躍。『天と地と・黎明編』『幻の女』などのテレビも演出した。『リング』の中田秀夫を始め日活出身の若手監督たちに多大な影響を与えた。


■松田まどか(西宮なぎさ役)

1987年岐阜県出身。身長160cm。小学6年生在学中に映画『NAGISA』の主役オーディションに応募。プロアマを含む参加者500名の中から見事“なぎさ”役の栄冠を射止めた。高山市に在住し、海を知らずに育ったにもかかわらず、「湘南育ちの野性味とナイーブさを併せ持つ原作の主人公のイメージにピッタリ!」とスタッフたちを驚嘆させた。 クラスメートらの熱い声援を受け、多感な思春期の少女が体験するひと夏の物語を体当たりの演技で挑み、とてもドラマ初体験とは思えない成果をあげている。 実生活でも人前に出ることと、人と話をすることが大好きな中学1年生で、そのものおじしない明るさで、あっという間に撮影現場のアイドルになってしまった。 撮影の感想として、「子供っぽい部分は素でできたんだけど大人っぽい部分は難しかった。恋とかよくわからないです(笑)」 将来の目標は「広末涼子さんを超えること」とまだ幼いながらも、しっかりと女優への野心と夢を身につけている所が“ただものではない女の子”の出現を予感させる。


■村上もとか(原作)

1951年神奈川県出身。1972年「燃えて走れ」(週刊少年ジャンプ誌)でデビュー。ジャンルを問わない幅広い分野で活躍。そのしっかりとしたドラマ作りと、精緻な絵には定評がある。1982年、「岳人(クライマー)列伝」で講談社漫画賞、1984年「六三四の剣」で小学館漫画賞、1996年「龍RON」で同漫画賞。1998年に同じく同作品で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞でそれぞれ受賞、NHKでドラマ化もされ話題を呼んだ。 他、主要作品に「熱風の虎」「赤いペガサス」「へヴィ」「ドロファイター」「風を抜け!」など。「NAGISA」は小学館ヤングサンデー誌に連載され、1990年に同社より刊行された青春劇画の珠玉編。1999年に中央公論文庫の「村上もとか傑作選」に収録された。



◆なぎさが案内する小さな夢と冒険の世界を
少しだけ疲れてしまった人に見て欲しい


『NAGISA』は海辺の街に暮らす、12才の少女のひと夏の物語である。大人のアタマで作ったシナリオではいけない。どうすれば自分が少女の心の動きに近づくことが出来るか、まずこの事を考えた。 オーディションが何度もくりかえされ、ヒロインの座を射止めたのは、岐阜県に住む“松田まどか”という無名の少女だった。何よりも走る姿が美しい。泳ぎにも力がある。これは天性のものである。演技的にはズブの素人であることで、シナリオも固まっていった。 リハーサルでは何度も壁にぶつかったが、明るくタフな感性で、乗り越えてくれた。次第に“まどか”が“なぎさ”に同化して、一日一日見事に変身していったのだ。 この映画はまず、都会で暮らす若い女性達に見て欲しい。誰もがそれぞれに、大人になる直前に輝く時を持っていた。それが都会の騒音に、激変しつづける世相に、過剰な情報の渦に、すっかり埋もれてしまっている。 是非、心が疲れているあなたに、なぎさが案内する小さな夢と冒険の世界にトリップして欲しいと願っている。(小沼勝・監督)