【解説】
◆鮮烈なカラーと音楽が躍動する映画的興奮
リオ・デ・ジャネイロの名物、年に一度のカーニヴァルは、現代のエクスタシーである。サンバ、サンバの強烈なリズムの饗宴の中に、ギラギラする鮮烈な原色、思い思いの仮装をこらした黒い肌が夜を徹して踊り狂う。地方からカーニヴァル見物にやってきた娘ユリディスとギターのうまい市電の運転手オルフェ。踊り明かすうち、ふたりに熱い恋が芽生える。が、ガイコツ<死>の仮面をつけたストーカーにつきまとわれた彼女は事故死してしまう。しかし、死を超越した<永遠の愛>に結ばれようと街中をさまようオルフェ…。
ギリシャ神話「オルフェ」の物語をオール・ブラック・キャストで現代によみがえらせ、マルセル・カミュ監督の生涯を代表する傑作になった『黒いオルフェ』。
「オルフェ」の物語はさまざまな形で劇化、映画化されてきた。1956年にブラジルの新しい波を代表する劇作家ヴィニシウス・モライスが背景を現代のブラジルにおきかえ、ブラック・キャストで劇化した舞台が土台になっている。初演の翌年、はじめてブラジルを訪ねてカーニヴァルの興奮を体験し、舞台を見て感激したカミュ監督は、短期間に4回もブラジルを訪ねて映画化の構想を練り、すべてをブラジル・ロケ、現地録音で完成した。
出演者のほとんどがオーディションで一般から選ばれたことも特色のひとつ。オルフェ役のブレノ・メロはサッカー選手である。ユリディス役のマルペッサ・ドーンは歌とバレエの練習をしていた。
音楽は当時ブラジルで急速に盛り上がっていたボサノヴァを取り入れ、とくに「フェリシダージ(悲しみよさようなら)」「カーニバルの朝(黒いオルフェ)」はわが国を含む全世界で大ヒットし、一大ボサノヴァブームを巻き起こした。また、フランス映画界で『ぼくの伯父さん』(1956)『ひと夏の情事』(1959)などでカラーの名手とうたわれるジャン・ブールゴワンの映像は、世界3大美港のひとつといわれるリオの美しい風光と郷土色をあますところなくとらえ、カーニヴァルの強烈で圧倒的な色彩美と対比する。
1959年カンヌ映画祭グランプリ、1960年米アカデミー賞外国語映画賞を受賞、日本では1960年度「キネマ旬報」ベストテンで外国映画6位に選ばれた。
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