『サン・ピエールの生命』



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1999年/フランス/カラー/シネマスコープ/1時間51分 原題:La Veuve de Saint-Pierre(サン・ピエールの未亡人/ギロチン) 日本語字幕:寺尾次郎 配給:シネカノン/アミューズ

◇監督:パトリス・ルコント ◇製作:エピテート(ドゥニーズ・ロベール、ダニエル・ルイ) ◇脚本:クロード・ファラルド ◇撮影監督:エドゥアルド・セラ ◇美術監督:イヴァン・モスワン ◇衣装:クリスチャン・ガスク ◇編集:ジョエル・アッシュ ◇録音:ポール・レーヌ、ジャン・グディエ、ドミニク・エネカン ◇スクリプト:マリー・ルコント ◇制作進行:フレデリック・プラム ◇スチール・カトリーヌ・シャブロル

◇キャスト:ジュリエット・ビノシュ、ダニエル・オートゥイユ、エミール・クストリッツァ、ミシェル・デュショニスワ、フィリップ・マニャン、リスチャン・シャルムタン、フィリップ・デュ・ジュヌラン、カトリーヌ・ラスコー、マルク・ベラン、ギラン・トランプレ、レイナルド・ブシャール、イブ・ジャック



| 解説 | ストーリー | キャスト&スタッフ |
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【解説】

◆深い感動を刻み込む人間ドラマ


1849年、カナダにあるフランス領サン・ピエール島。この島に駐留する軍隊長ジャンと、その美しく純真な妻マダム・ラ。二人は深い愛で結ばれ、互いに尊敬し慈しみ合っていた。そして島に流れ着いて酒に酔った勢いで殺人を犯し、死刑を宣告された荒くれ者の漁師ニール。彼は島にギロチンが運ばれる長い間、マダム・ラの身の回りを手伝うことになる。マダム・ラは粗野で無教養だが純朴で優しいニールの心を理解し、やがて母性愛ともとれるような深い思いを抱くようになる。島の人々とも親交を深め一人の人間として成長し、宣告を受けた時点からは明らかに変わってきているニールの全てを否定し、果たして本当にこの世からその存在を消してしまってもいいのだろうか。彼女は宣告に対する疑念を持ち始め、刑を執行すべき立場のジャンとニールの間で揺れ動く。やがてギロチンを載せた船が沖にその勇壮たる姿を現し、マダム・ラは遂にある決心をする。そして、そんな妻のすべてを許し受け容れ見守るジャンもまた、ある決心をする。

これまで様々なジャンルに挑戦し、前作『橋の上の娘』では“触れない愛”を描いたパトリス・ルコントが、今までのどのイメージとも違う、さらに新しい愛の形を提示する。マダム・ラのニールに対する“母性の愛”、ジャンのマダム・ラに対する“許しの愛”。言葉が口に出されることも、感情が露にされることもない。そして、どんな言葉よりも多くを語る沈黙。淡々とした描写の中で、「生命の尊厳」「死刑制度」「人は変われるか?」と問いかけながら、次第に深い愛がじわじわと心に染み透ってくる。清冽な大自然の風景の中、壮大なスケールで感動的に描かれる、運命に翻弄される三人の男女が織りなす“愛を超えた愛”の物語。果たしてこの運命の向こう側には、一体何が待ち受けているのだろうか。



◆豪華キャスト夢の競演!


二人の男をそれぞれ全く違った感情で愛するマダム・ラに、ルコント作品初出演のジュリエット・ビノシュ。その完璧な美しさとすでに貫禄さえ感じさせる演技で、微妙な心の襞を見事に演じ切っている。自分の正義感に忠実に行動しながら、愛する妻の気持ちをすべて受け容れ大きな心で包み込み、何事からも守り通す夫ジャンに、ビノシュとは初共演のダニエル・オートィイユ。その感情を抑えすべてを許す究極の愛は、衝撃のラストシーンで大きな感動へと変わる。そして粗野な男臭さと純朴な優しさを合わせ持つニールに、『アンダーグラウンド』『白猫・黒猫』の監督として多くのファンを持ち、映画人からも敬愛されているエミール・クストリッツァ。映画初出演とは思えない堂々とした演技力とその圧倒的な存在感が話題になっている。

脚本はフランスでベテラン監督として知られ、当初は自らメガホンを取る予定だったクロード・ファラルド。プロデューサーは『リディキュール』のジル・ルグランとフレデリック・ブリリオン。予定されていたアラン・コルノーが監督を降板した後、すぐにルコントに話を持っていき、元々ビノシュとの仕事を切望していた彼はシナリオを読んで即決した。撮影は『スペシャリスト』以来『髪結いの亭主』『タンゴ』『イヴォンヌの香り』『パトリス・ルコントの大喝采』などのルコント作品でパートナーを務め、多数の国際映画祭で受賞をしているエドゥアルド・セラ。衣装は70年代から映画、舞台、オペラと幅広いフィールドで活躍する『リディキュール』のクリスチャン・ガスク。そして音楽は『イヴォンヌの香り』のパスカル・エスティーヴが担当し、流麗なオーケストレーションと哀愁の漂うアコーディオンが、心に染みいる美しいメロディーを奏でる。




 


【ストーリー】

◆運命の翻弄される三人の男女が織りなす、
愛を超えた美しい愛の物語



1849年、カナダにあるフランス領サン・ピエール島。 この島の小さな村では、穏やかな暮らしが営まれているのと同時に、フランス軍が駐留しその平和と共存している。軍隊長のジャン(ダニエル・オートゥイユ)はこののどかな島に赴任し、深い絆で結ばれた妻ポリーヌ(ジュリエット・ビノシュ)と愛を育んでいた。ジャンは軍人として信頼されている人格者であり、ポリーヌは子供のような純真さをなくしていない美しい女性だ。

折からの悪天候でこの島に流れ着いた粗野で無教養な漁師ニール・オーギュスト(エミール・クストリッツァ)は、ある夜酒に酔った勢いで人を殺してしまう。そして裁判で死刑を宣告されるが、この離島にはギロチンもなければ死刑執行人もいない。統治総督はフランス政府にギロチンを送ることを要請するが、その手続きと船の到着にはかなりの月日を要するようだ。その間、ジャンがニールの身柄を預かることになり、ジャンとポリーヌが住む家の敷地内に拘留されることになった。二人の部屋からニールの部屋が見おろせた。

軍人の妻ではあるが進歩的な考えをもつポリーヌは、この島で死刑が執行されること、そして法の下とはいえ自分の夫がそれを遂行する立場にあるということに恐れを感じていた。ニールは拘留中にポリーヌの身のまわりの手伝いをすることになる。そしてポリーヌは、ニールに読み書きを教え、外出時に付き添わせ、時には花壇作りを手伝わせたりしていた。やがてポリーヌの中には、正義感と共にニールに対する母性とも愛ともとれるような大きな感情が芽生え始めていた。そんな頃やっと本国の許可がおり、ギロチンを積んだ船マリー=ギャラント号がマルチニーク島を出航した。

ある日ポリーヌは、壊れた屋根に手を焼いている村の未亡人マルヴィランの家にニールをつれて行き修理をさせ、別の日にはマルヴィランの家の雪降ろしをさせた。すっかり助けられたマルヴィランはニールに深く感謝していた。ポリーヌとニールは度々マルヴィランの家に出向き、テーブルを囲んでお茶を飲んだり、暖炉で暖まったり、マルヴィランの幼い娘エミリーと一緒に親交を深めていった。それはポリーヌにとって、マルヴィランとエミリーにとって、またニールにとってもささやかな幸福を感じることのできる瞬間であった。しかしそんな時にも、ギロチンを載せた船は刻一刻と島に近づいていた。





ニールは本当に全てを否定されて処刑されなければならない存在なのだろうか?自分の前では常に良心的で心優しいニールの運命に対するポリーヌの疑問は、次第に大きくふくれあがっていく。ポリーヌは折をみては一緒に出掛け、村人たちの手伝いをさせるように計らう。村人たちの間にも、死刑囚とはいえ悪態をつくわけでも、危険な目つきを見せるわけでもないニールに対して、ごく自然に同情の念が広がり始めていた。そんなある日、ニールは暴走する荷車に乗った女の命を救い、一躍みんなの人気を集めることになる。しかしこうした世間の風潮に、本国パリの風向きをうかがうばかりの総督やお付きの役人たちは、眉をひそめ始めていた。

今やポリーヌにとってニールの問題は、法律や死刑の是非を問うと同時に、隊長夫人としての立場と一人の人間としての自分の間で揺れる内面の葛藤の問題になっていた。その一方、マルヴィランは娘と戯れるニールの姿を見て、たとえ近い将来終わってしまう事が分かっていても、夫そしてエミリーの父親としてニールとの関係を築きたいと思っていた。それを知ったポリーヌは喜んで仲をとりもち、二人は神父の前で永遠の愛を誓い合う。

いよいよマリー=ギャラント号が岸から数キロ先にうっすらとその勇壮な姿を現した。しかしそこで船にトラブルが発生し、立ち往生してしまう。到着するためには、この巨大な船を幾つかの小舟で引っぱって来るしかなかった。役人が群衆を前に漕ぎ手を募ったが、この過酷な仕事に挑もうとする者は誰もいなかった。そこで報酬を大幅に値上げすると、群衆の中から一人の手が挙がった。それはニールだった。彼は近い将来この世を去る者として、妻と娘に財産を残すために、自分の首をはねることになるギロチンを自らの手で運ぶというのだ。ニールに続いて何人かがこの仕事を請け負い、遂にマリー=ギャラント号が到着する。

もはや死刑執行に対する島民たちの反発は強まる一方だった。総督は島民を統率できない現状に危機感を抱き、ジャンに無理にでも民衆を鎮めるように詰め寄った。妻の想いと、狂い始めた現実の間でジャンの苦悩はつのるばかりだった。しかしジャンは総督たちの思惑とは反対に、死刑執行に対し消極的な気持ちになっていた。ここで世論に刃向かえば、混乱や暴動を招きかねないと判断したからだ。そして何よりも最愛の妻の純真な思いをくみ、何事からも守り通そうと心に決めていたからだ。ジャンは遂にニールの処刑の立ち会いを拒否することを宣言し、部屋を立ち去った。総督らは渋りきった表情でジャンの後ろ姿を見送るだけだった。






到着した巨大なマリー=ギャラント号を前にしてポリーヌの心は乱れ、もはや誰にも止めることの出来ないある決心を胸に秘めていた。ある日彼女は、いつものようにニールを付き添わせて港へと向かった。見送りに来たジャンは、全てを悟ったような眼差しでポリーヌと見つめ合い、ただ一言「気を付けなさい」とだけ声をかけた。二人はボートに乗りこみ、ポリーヌは途中人影のない岸で一人ボートを降りると、ニールにこのまま逃亡するよう促した。あなたなら何とか誰にも見つからない別の島にたどり着くことができるはず。妻と娘は後から必ず連れていくから、と。

ポリーヌは自分のとった行動によって、ジャンの立場が危うくなるということも承知していた。そしてもう後戻りのきかないこの現実を全てジャンに打ち明けるが、彼はすでに全てを理解していた。そして夫に言われるままに窓の下を見おろすと、中庭の入り口に逃亡しているはずのニールの姿があった。ニールもまた、自分が逃亡することで罰を受けることになる人々のことを想って引き返してきたのだ。夫人はどうもがいても好転することのないであろうニールの、そして自分とジャンの運命に愕然として震え上がるばかりだった。もう自分の愛では誰も救うことが出来ないのだろうか?世界は愛や情では揺り動かすことが出来ないのだろうか?






 


【キャスト&スタッフ】

■パトリス・ルコント(監督)

1947年11月12日パリ生まれ。映画好きの父の影響で幼いころより映画館に通い、1967年よりIDHEC監督科に。短編映画を多数監督。一時漫画家として活動した後、1975年に長編デビュー。この作品で知り合った劇団スプランディドのジャン・ロシュフォールなどを起用した作品を次々と監督し、国内での人気を確立。『タンデム』(1987)ではセザール賞の監督賞、脚本賞など5部門にノミネート。評論家からも高い評価を得る。そして今までのコメディ・タッチのイメージを変える切ない悲恋物語『仕立屋の恋』(1989)がカンヌ国際映画祭に正式出品されて国際的な評価を受け、その後セザール賞監督賞にノミネートされる。『髪結いの亭主』(1990)ではルイ・デリュック賞を受賞、セザール賞監督賞にノミネートされ、その人気を世界中で不動のものにする。『タンゴ』(1992)『イヴォンヌの香り』(1994)の後の大作『リディキュール』でカンヌでオープニングを飾り、セザール賞作品賞など4部門を受賞。続いてヴァネッサ・パラディを初めて起用した『ハーフ・ア・チャンス』(1998)では、アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドの28年振りの共演が話題を呼び、『橋の上の娘』(1998)でもヴァネッサ・パラディとダニエル・オートゥイユが観客を魅了し大ヒットとなる。最新作はすでに撮影を修了しているシャルロット・ゲンズブール主演『愛のめまい(仮)』(『Felix et Lola』)と2001年には再びダニエル・オートゥイユと組んだ作品を予定している。


■ジュリエット・ビノシュ(隊長夫人)

1964年3月9日パリに生まれ、舞台監督の父と女優の母の影響で幼い頃から演劇に親しみ、12歳で初舞台を踏む。その後コンセルヴァトワール(演劇学校)に入学し本格的に演技を学び、18才の時にTVに初出演。ゴダールに見出され、『ゴダールのマリア』(1984)で映画初出演。『ランデブー』(1985)の主役に抜擢されセザール賞の最優秀主演女優賞にノミネートされる。『汚れた血』(1986)で再び主役を演じフランスの若手を代表する女優として注目を集め、続く『存在の耐えられない軽さ』(1988)で英語映画でも、デビューを果たし、国際女優としての第一歩を踏み出す。そして『トリコロール』三部作の第一作『トリコロール 青の愛』(1993)で、ヴェネチア国際映画祭やセザール賞などの主演女優賞受賞、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)ではアカデミー賞助演女優賞とベルリン国際映画祭女優賞を獲得し、大女優としての名声を確立する。『年下のひと』(1999)で共演したブノワ・マジメルと熱愛し、1児もうけている。『溺れゆく女』が9月に公開予定。最新作はラッセ・ハルストレム監督の『Chocolat』。


■ダニエル・オートゥイユ(隊長)

1950年1月24日、アルジェリア生まれ。フランス南東部アヴィニヨンで育つ。父はオペラ歌手。6歳で初めて舞台に立ち、16歳で地方劇団に入りチェーホフ劇に出演。17歳でオペレッタの舞台に立ち歌手としてデビュー。1970年にパリに出てフランソワ・フロランのもとで演技を学びATNP(国立民衆劇場)の団員として活躍する。映画デビューはカトリーヌ・ドヌーブ主演の『ヘルバスター』で、以降多数の映画に出演し、『ザ・カンニング/IQ=0』(1980)は大ヒットし一躍注目を集める。『愛と宿命の泉』(1986)でセザール賞主演男優賞を受賞、『僕と一緒に幾日か』(1988)と『愛を弾く女』(1992)でセザール賞主演男優賞にノミネートされ、後者ではフェリックス賞主演男優賞を受賞する。そして『八日目』(1996)では共演したパスカル・デュケンヌと共にカンヌ国際映画祭男優賞をダブル受賞し、フランスを代表する演技派俳優として世界的に知られる存在となる。『橋の上の娘』(1999)では再びセザール賞最優秀男優賞を受賞。『愛と宿命の泉』や『愛を弾く女』などで共演したエマニュエル・ベアールとの間に1児をもうけたが現在は別れている。


■エミール・クストリッツァ(ニール・オーギュスト)

1954年11月24日、旧ユーゴスラヴィアのサラエヴォ(現ボスニア・ヘルツェゴビンナ)生まれ。高校時代から映画を作り始め、1973年よりプラハ映画学校(FAMU)に留学し、短編を制作。その後サラエヴォに戻りテレビ映画を製作し、26歳の時に初長編映画『ドリー・ベルを憶えているかい?』(1981)でヴェネチア映画祭金獅子賞受賞。次作の『パパは、出張中!』でカンヌ映画祭パルムドール大賞を受賞し世界的に注目を集め、『ジプシーのとき』(1989)ではカンヌ映画祭最優秀監督賞を受賞。1990年からコロンビア大学の召還を受け、ニューヨークに滞在。ジョニー・デップ主演『アリゾナ・ドリーム』でベルリン映画祭銀熊賞審査員特別賞を受賞。祖国崩壊の中で作った『アンダーグラウンド』でカンヌ映画祭で2度目のパルムドール大賞を手にしたが、マスコミの政治的な論争に巻き込まれ引退を宣言。しかしその後『白猫・黒猫』(1998)で復活し、1998年ヴェネチア映画祭銀獅子賞最優秀監督賞を受賞した。今回はルコントのオファーに快諾し、俳優という新境地に挑戦している。